東京高等裁判所 昭和38年(ラ)361号 決定
抗告人が別紙商標目録記載の商標権を有することは当事者間に争いがないが、記録によるも、相手方においてこれらと同一の商標をその指定商品である自動車および自動車部品に使用している事実は疎明されないこと原決定説示のとおりである。
(二)相手方の本件標章の使用及びこれと本件登録商標との類否相手方がその指定商品である自動車および自動車部品に本件標章を使用してこれらを製造または販売、頒布していることは当事者間に争いがない。そこで本件標章と本件登録商標との類否について考えてみるに、前者と本件登録商標中登録第四三一〇七七号商標すなわち図形の上に「トツクリ印」の文字が特に加えられている登録商標とが類似するかどうかの判断は先ず措いて、本件標章と登録第四四八、八四五号商標とを比較するに、両者を対比して観察すれば、後者は中央の円形状部分から上下に突出している半矩形の部分に長短の差があるのに対し前者は中央の円形状部分から正反対に突出した半矩形の部分の長さが相等しく、この点において両者が相異なることは原決定説示のとおりであるが、両者ともに矩形の長辺の一部が弧状にふくらんだ線で描かれた外枠だけから或る図形であつて、円形状部分については両者とも全く同一というべく、円形状部分より突出している半矩形部分についてもその巾はほとんど同じ割合を示し、単にその長さにおいて両者若干の差異あるにすぎない。しかも両者は大小様々の自動車部品に使用される関係上、小さい部品に付せられた場合両者の差異である半矩形部分の長短はほとんど識別し難いものと考えられ、なお中央の円形状部分から突出している半矩形部分の位置が後者にあつては上下であり、前者のうち下段に書かれたものにあつては左右であることも、これらの標章を使用した自動車部品を自動車の各部に取り付けたその取り付け箇所、また部品そのものあるいはその包装の置かれた位置、これを見る角度の如何によつて上下にもなれば左右にもなるから、前記半矩形部分の長さおよび位置の差異にかかわらず両者から需要者の受ける印象は差異がないというべきである。したがつて、両者につき各別に時と所とを異にして観察するときは、かれこれ混同誤認するのおそれなしとせず、両者は外観上類似するものというべく、この点に関する相手方の主張はこれを採用しない。してみれば相手方において本件標章の使用を適法ならしめる格段の理由がなければ相手方はこれと登録第四三一〇七七号商標との類否の判断をまつまでもなく、これが使用は禁止されるものといわなければならない。
(三)相手方の先使用による本件標章を使用する権利の有無
記録によると、「相手方は昭和八年資本金一、〇〇〇万円をもつて、自動車および自動車部分品の製造を主たる事業目的として設立された株式会社であつて、創立当時より「ダツトサン号」小型乗用車および「ダツトサン号」小型貨物自動車を製造し、一時は月産一、〇〇〇台を超えたこともあり、昭和一二年からは「ニツサン号」普通乗用車および「ニツサン号」普通貨物自動車の製造をも行うようになり、国民大衆車として確固たる地位を得、昭和一六年には月産二、二五〇台を生産して市場に送り出すに至つたが、大平洋戦争勃発後は社名を日産重工業株式会社と改め一時自動車およびその部品の生産を休止した。しかし、終戦後昭和二〇年一二月進駐軍当局から貨物自動車および同部分品ならびに小型自動車および同部分品の生産の再開を許可され、その後その生産は逐年増加し、昭和二三年度において八〇〇〇台以上の自動車を生産しており、昭和二四年八月社名を旧称たる日産自動車株式会社と改称した。相手方会社の製品の販売については昭和一二年以来戦時中を除き終始日産自動車販売株式会社がこれを担当し、昭和二三年当時相手方会社の製品の販売店は全国にわたつて散在した。相手方は昭和一一年頃その製品と他社の類似製品とを識別するため、相手方の製造する自動車部分品に本件標章を使用し始め、爾来継続使用して今日に至つており、昭和一二年以来その製造にかかる自動車部分品には本件標章が施してあることの宣伝に努め、殊に終戦直後生産を再開してからは、あるいは型録および宣伝用文書を全国の販売網を通じて顧客に配布し、あるいは製品展示会を開く等の方法により本件標章の周知徹底をはかつた結果、本件標章は相手方の業務にかゝる商品を表示するものとして抗告人が本件両登録商標の登録を出願した昭和二十七年十二月四日及び昭和二十八年二月二十七日当時すでに取引者および需要者の間に広く認識されていた。そして相手方は右使用にあたり、抗告人が本件商標を有することを知らず、不正競争をなす目的、意思がなかつた。」以上の事実が疎明される。そうすると相手方は商標法第三二条(旧商標法第九条第一項、商標法施行法第四条)のいわゆる先使用権を有し、かりに本件登録商標中登録第四三一〇七七号商標と本件標章とが類似するものとしても抗告人の本件商標の登録にかかわらず本件標章の使用を継続し得るものといわなければならない。
(四)結論
以上の理由により抗告人は相手方に対して本件標章の使用を禁止する請求権を有しないものであるから、抗告人の本件申請はこれを許容するに由なく、これと同一結論に出でた原決定は結局相当であり、本件抗告は理由がないからこれを棄却すべきものとする。
〔編註〕 本件に関する商標目録および図面は左のとおりである。
商標目録
第一 昭和二七年一二月四日 出願
同 二七年願書第三〇二六七号
同 二八年 五月二三日 公告
同 二八年 八月一一日 査定
指定商品第二〇類
ガソリン自動車、電気自動車、乗用自動車、運搬用自動車、附随卓、トレーラー及びその部分品その他本類に属する商品
昭和二八年 九月一〇日 登録
登録番号第四三一〇七七号
<省略>
第二 昭和二八年 二月二七日 出願
同 二八年願書第五〇七五号
同 二九年一月五日 公告
同 二九年三月一六日 査定
指定商品第二〇類
ガソリン自動車、電気自動車、乗用自動車、運搬用自動車、附随車、トレーラー及びその部分品その他本類に属する商品
昭和二九年 七月二八日 登録
登録番号第四四八八四五号
<省略>